オックスフォード大学リンカーン・コレッジ夏季講座 体験談16

体験談16 2018年度参加 文学部2年 R・Oさん

【参加申し込み~出国前】

私がこのプログラムに参加申し込みをした理由は主に2つあります。

第一に、自分を試したかったからです。私は高校時代から留学に憧れていて、海外で、可能なら長期で、学びたい!という好奇心が常にありました。そこで、まずは短期留学で自分が何を感じられるのか、普段の大学生活と異なる環境で何をどう頑張れるのか、を確かめて、自分を見つめ直したいと思いました。

第二に、リンカーンコレッジのプログラム自体の魅力に強く惹かれたからです。「短期留学」でも、せっかく行くのだったら、少しでも関心のあることを、自分の将来の学びを刺激してくれるようなことを学びたいと思っていました。その点で、英国史に関するdebateとそれを扱う講義、演劇の授業で構成されているこのプログラムは、西洋史学を専攻していて、英国そして中世史に強く関心を持っている、かつ演劇の経験はほぼないものの、高校時代まで続けていた新体操のおかげで演劇に限らず演じることが好きで関心がある自分にあっていて、きっとこれでなければ得られないことがたくさん学べると考えました。

選考に合格してからは、留学本番をモチベーションに、英検の勉強をしたり、日本語でイギリス史に関する本を読んだりしましたが、大学の授業がある期間はなかなか時間を上手く確保することができずに苦労しました。そうこうしているうちに、出国約1カ月前、講座担当のNeil先生から、いかにこのプログラムがhardでexcitingか、を伝える超長文メールが届き、それはまるで私にとって脅しのように思えてなりませんでした。けれども、同時にNeil先生とSAの1人が、出国までメールで疑問や不安の解消に努めてくれる旨を示してくださりました。私は、あまりにも不安で何度も予習の方法などを聞いたりしました。繰り返しの連絡にもかかわらず、毎度あたたかいお返事をいただけて、2人にはとても感謝しています。

しかし、不安は圧倒的に大きいまま、それでも行くからには、絶対何事にもめげずに多くのことを吸収してくる!と心に決めてイギリスに向かいました。

【1日の生活-授業日】

起床時間やdebateの準備等、各自に委ねられていた点については、完全に自分のことを書きます。

5:30前後に起床。間も無く、debateの準備をするのが日課でした。大抵、前夜までに仕上げた原稿を読み返して、納得のいかない論理を補填しようと教科書を読むことが多く、時にインターネットで調べ物をすることもありました。そして、発表資料の作成、speechの練習であっという間に7:30。ここから8:00までは、dramaのセリフを覚えながら、身支度をしていました。

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8:00~9:00の間に朝食を取ります。毎朝、クロワッサン、マフィン、茹で卵、ハム、チーズ、シリアル、ヨーグルト、フルーツをセルフで取りました。どれも美味しく、この時間が実に幸せで、最もお気に入りの時間でした。(⇒右の写真:朝食の様子)

朝食後は、debateの班で集まり、SAのもと最後の打ち合わせ、練習をしました。どの班も、どの人も日に日に熱が入り、緊張感の高まる時間だったように思います。

9:30からdebateが開始。1班4人にSAが1人つき、2人ずつに分かれて敵陣と戦いました。私自身、決して多くは勝てなかった分、勝ちを得られたときは純粋に嬉しくてパートナーと喜んだりした一方で、例え負けであっても、その日のdebateに向けてどれほど自分が準備できたのか、甘さはなかったか、を冷静に振り返るように努めました。

debateが終わり次第、当日かつ翌日のdebateに関連する内容のレクチャーを受けました。各週、中世英国史、近世英国史を専門にする先生が担当してくださりました。難しい点もありましたが、日本で多い一方通行の講義形式とは異なり、話を聞きながら常にinteractiveな姿勢を求められるものでとても惹き込まれました。

講義終了後、翌日のdebateのテーマ、サポート担当のSAが発表され、各班に分かれてSAのレクチャーを受けました。彼らのレクチャーは本当に明快で、内容の込み入っている教科書の内容も彼らの話を聞いた後には理解しやすくなっていることが多々ありました。

昼食はコレッジのホールで提供される日と各自あるいはSAとともに近くのお店でとる日がありました。例年の参加者のおっしゃる通り、コレッジの食事は驚くほど豪華です。そして、食事の時間はSAや先生と他愛もない会話で盛り上がれる楽しい時間でした。

14:15からdramaのworkshopがありました。ZIP-ZAPや皆でカウントを合わせて跳ねるBOUNCE、eyecontacts、hugなどのexerciseは、当初、なぜこのようなことが演劇の舞台に必要なのかよく分からないというのが正直なところでした。しかし、毎日繰り返し、実際にcastingが決まって劇そのものの練習に入ってみると、workshopでのexerciseは無駄な感情を排して、周囲との一体感など様々なことに配慮しながら、その場で自分が行っていることに集中する訓練であり、演技の質を高める上で役に立つものであるように思えました。そして、毎週金曜日16:00からの発表に向けて、5人の慶應生に1人のSAがついてシェイクスピア演劇のワンシーンを演じる練習をしました。この時間は、班のメンバーとどのようにセリフを掛け合うか、どのような演技で舞台空間を使うのか、を考えながら演技してみる時間であり、個々のセリフは隙間時間を見つけて、ときに睡眠を犠牲にして覚える必要がありました。決して楽ではないことでしたが、皆が自分に課せられた役に責任を持ってやろうとしている雰囲気、そして先生方やSAたちの情熱に後押しされて辛抱強く取り組むことができました。

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(ドラマのワークショップの様子)

授業後には、たくさんの課外活動がありました。Punting(川下り)をして、夜8:00になっても明るい外に感動しながらpicnicをしたり、StrastfordのRoyal Shakespear CompanyやLondonのGlobe Theaterに観劇に行ったり、夜遅くにアイスクリームを食べ
に行ったり、日本食パーティーをしたり、、、など盛りだくさんでした。特に何も予定されていない日でも、SAが近くのお店に晩御飯を食べに連れて行ってくれたり、common roomでピンポンをしたり、談笑しながらdramaのセリフを覚えたり、、、hardな生活の中でも、最高の仲間とSAたちと今しかこんなに楽しめるときはない!くらいの気持ちで楽しく過ごしました。

楽しいことをしていると、あっという間に時間が経ちましたが、変わらず次の日はやってきました。前日の夜に何があろうと、金曜日を除く翌日には9:30にdebate開始が控えていました。そのため、21:00前後から班ごとにmeetingを開くことが多かったです。Meeting後、私は自室で改めて教科書を読みながら、一通りの原稿をまとめるところまではやりきって寝るようにしていました。大抵、終わるのは1:00すぎでした。特に大変さを極めたのは、観劇に行ってオックスフォードに戻るのが深夜0;00近くになってしまったにも関わらず、debateの準備がほとんどできていないときでした。けれども、妥協するわけにはいかない、絶対に中途半端な準備で次の日を迎えるものか、という気概で乗り切り、3:00くらいまで教科書と格闘した後、2時間と少し寝て、朝になって原稿を考え始める、なんてこともありました。

金曜日だけは、ドレスに着替え、とびきり豪華なdinnerとワイン(イギリスでは18歳以上飲酒可。私の初アルコールはイギリスでした)とともに、コレッジのホールで特別な夜を過ごしました。週の半ばでどんな困難に直面しても、このときには一週間を乗り切った安堵の気持ちと充足感に包まれたものでした。食事の後は、barに場所を移し、日本ではありえないくらいのノリで深夜までひたすら踊りまくりました。このdance partyでのNeil先生とSAの姿は、私に強烈な印象を残しました。彼らはdebateの準備やdramaのworkshopには、こちらが圧倒されるほどの情熱をもって真剣に取り組む一方で、dance partyとなれば、これまたこちらを圧倒するエネルギーでその場を楽しみ、私たちをそのノリに巻き込んでいったように思えたからです。やるときはやる、楽しむときはとことん楽しむ、その二面性に彼らの凄さが凝縮されているようでした。

【休日の過ごし方】

休日として過ごせたのは、3日間の土日と出国日のお昼過ぎまででした。

到着後すぐの日曜日は、5、6人でオックスフォードの街を観光しました。エジプトの博物館に行ったり、オックスフォード城・牢屋のツアーに参加したり、街のお店を見たりしました。授業を一週間こなした後の土曜日には、SAの企画したCotswoldsへのツアーに参加しました。美しい自然と家々、villageの景観に心が洗われるようでした。その翌日には、またSAの引率のもと、Blenheim Palaceに行きました。この日は、雨と強風が少し残念でしたが、華やかで上品な宮殿内をめぐることができて、とても幸せな気持ちになりました。Winston Churchill首相のスピーチを聞くことができるexhibitionがとても印象深かったです。出国日は、クライストチャーチを見学した後、SAとともに、一緒にいられる時間を惜しむように芝生でpicnicをしました。

私自身、出国前は授業のことで頭が一杯で休日は完全にno planでしたが、SAが様々な企画をしてくれたおかげで、イギリス・オックスフォードに来たからならではの素敵な場所を訪問して心身をリフレッシュすることができました。休日にまで及ぶSAたちの心遣いには感動するしかありませんでした。

【街の様子】

オックスフォードの街は本当に美しかったです。歩いているだけでこんなに心がときめく街はなかなかないと思います。学術都市であるゆえなのか、落ち着いた雰囲気が漂っていて、(もちろん危機管理は怠れませんが、)治安も良いと感じました。

滞在先から徒歩圏内に様々な飲食店やsouvenir shop、本屋さん、薬局など、生活するにあたって便利な環境が整っていました。特に、スーパーマーケットには日本では見られないような商品(チーズやお菓子など)が立ち並び、見ているだけで面白かったです。

【この短期留学を通して得たもの】

私がこのプログラムを通じて得たこととして、以下で3点述べます。

第一に、自分の人生を数段豊かにしてくれる、これからもしてくれるだろう人との出会いです。Neil先生と5人のSAは、何に対しても真摯で、熱心で、ユーモアにあふれていて、常に頑張り続けるための刺激を与えてくれました。彼らが妥協することなく、このプログラムに全力を尽くしている姿を目の当たりにしたら、私自身も常に100パーセントの力を尽くさないわけにはいきませんでした。また、私を含む多くの日本人学生は、このプログラムのdebateに限ることではないですが、目先の結果を追い求めすぎなのかもしれないとSAたちと話していて思うことがありました。彼らが、「debateで大事なのは単純な勝ち負けではなくて、毎回のdebateから具体的に何を学び、自分個人として成長しているか。」と本気で言っていたのは、負けたときの慰めではなく、常にいかなる状況におかれても自分と向き合い、自己鍛錬し続けることで上を目指し続けることができるということをふまえた上でのことだったのではないか、と今となっては思います。だからこそ、彼らには自己を高めるための信念が備わっているし、それゆえぶれない、結果どこまでも頑張れるし、賢くなっていけるのだろうと思いました。彼らとかかわる中で、このようなことを感じられたのは、私の人生の宝です。また、一緒にhardなプログラムを乗り越えた慶應の仲間19人の存在は貴重です。関心や性格も異なる、良い意味で個性的な仲間だったからこそ、皆自分にはない強みをもっていました。とても流暢な英語を話す人、logicalなspeechを組み立てる人、社交性の高い人、speechの見せ方に優れた人、演技が上手な人、アイディアに優れた人、、、など常に自分も見習いたいと思っていました。そして、皆の頑張りが、私も負けるものか!という気持ちにさせてくれました。

第二に、自分のタフさです。この短期留学は、今まで生きてきてこれほど濃密な2週間はなかったのではないか、というほどhardなプログラムでした。特に2週目はdebate、dramaともに1週目以上に力を入れ、絶対後悔しないようにやりきる!と強く思い続けて過ごしていました。途中、debateの準備で納得のいく論理展開ができず苦悩し、同時にdramaのセリフの暗唱にも追われ、もう無理なんじゃないか、と夜中に一人あきらめかけそうになったこともありました。けれども、せっかくオックスフォードまで来て投げ出すわけにはいきませんでした。Neil先生やSAには、「全てを終えたとき、amazingな感情になるよ」と繰り返し言われていましたが、初めはそれが一体どのようなものなのかよく分かりませんでした。しかし、その真意がまさに2週目の金曜日、理解できたように思います。何の恐れや躊躇もなく役に入り込み、自分の出番を終えた後、最終班の演劇発表を見ながら、そのときまでに自分がしてきたことを無意識に振り返り始めると、不覚にも涙が出てきました。このときに派手に涙していた人は(おそらく)いなかった(少なかった)と思うので、恥ずかしい思いをしましたが、そのときに感じていたのは、安堵、幸福感、これまで感じたことのない感動と興奮であり、自分が2週間前よりもタフになれていたという自覚、そしてdebate・dramaの各々において、準備に全力を尽くし、自分がしたことで悔いるべき点はないという実感でした。たった2週間の留学であるにもかかわらず、なぜこんなにもemotionalになるのだろうと自分でも不思議でなりませんでしたが、見たことのない景色を見たようで、この景色を見るために2週間、絶えず自分のタフさが問われ続けてきたのかもしれない、(上手く言葉にしきれませんが、)この感覚が自分を超越することなのかもしれないと思いました。

第三に、これからの課題と勉強への意欲です。これは、第二の点で言及したタフさを獲得し、自身をいささか超越したような感覚を味わったからこそのものだと考えます。以前よりも、時間が限られていても何とかして自分をコントロールしつつ物事をやり遂げるタフさを2週間で得られたと思ったら、これからは中途半端な忙しさを言い訳にせず、今回の留学で理解が完全にはならなかった教科書やレクチャーの内容習得に努めたいと思います。また、3年次以降、ゼミを選択し、西洋史学の中でもより分野を狭めていくことになる前に、改めて自分が本当にやりたいと思う分野を見定めたいです。私にとって、2週目のGeorge先生のレクチャーはとても印象的で、中世から近世への変化、国制革命に対する評価をめぐる議論などに関心を持ちました。これまでは中世の社会史が最も関心の持っていた分野でしたが、それだけにとらわれず本を読む等で幅広く知識を蓄え、より納得のいく選択・学問ができるように勉強したいと思います。

【まとめ】

約2週間の留学でしたが、実際に経験したことを振り返ると、授業とその準備のほか、課外活動や休日を含めて、とても2週間で決して容易にやりきれるような量ではなかったことをしたのではないかと思うほどです。実際、日に日に睡眠時間を犠牲にし、様々なことに追われていった毎日でしたが、同じ2週間を過ごすなら少しでも多くの成果をあげたい!、教科書やレクチャーの理解、debateの準備に苦しんでも絶対に食らいついていく!という気持ちを持ち続けることで、自分の力不足を感じることがあっても、積極的に学び続けることができました。2週間という期間を大事に思えば思うほどアドレナリンが増したせいなのか、少ない睡眠でも眠くて集中できないということはありませんでした。(これが長期間続いたら、限界が来るかもしれません。)

そして、得られたものは想像をはるかに超えるものでした。一つ一つの経験・出会いが新鮮かつ貴重でした。そんな経験を通じて、以前よりもタフな自分を見つけることができ、頑張り続ければ自分はまだまだやれる、困難に直面してもタフさがあればいつかそれを克服することできるという根拠を全身で獲得しました。そして、もっと自分の理解力があればさらに面白く感じられるはずなのに、また、SAや先生方と日本語で自分ができる最高レベル(これもまだまだです)と同レベルで英語でアカデミックな話を交わせたらより多くを習得できるだろうに、いうような学問的な課題が私の目の前に表出したからこそ、今後、語学に甘えを許さず、西洋史学そのものをもっと学びたいという思いが一層強まったことは、何よりも大きな収穫だったと思います。

最後に、素晴らしい講座を提供してくださったオックスフォード・慶應義塾両大学の関係者の方々に感謝申し上げます。とりわけ、Neil先生と5人のSAには感謝してしてもしつくせないほどです。帰国日、彼らとの別れは涙なしにはできなかったほど、彼らとは深く関わり、とても良くしていただきました。またいつか、今よりずっと成長した姿で彼らと再会することを目標・モチベーションに、日々精進していきたいと思います。ありがとうございました。

最終日のGalaディナー.jpg

(最終日の集合写真)

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