パリ政治学院春季講座 体験談15

体験談15 2019年度参加 文学部3年 R・Oさん

【はじめに】

本体験談では、パリ政治学院での学びやパリでの生活で単に楽しかったことを伝えるのみならず、(もちろん、言うまでもなく楽しいのは間違いないですし、楽しかったことも存分に伝えますが、)渡航前の準備や実際にパリ政治学院やパリでの生活で役に立ったことや気をつけていたことなどを詳述することで、次年度以降、参加を希望する人の応募するきっかけや渡航準備の一助となることを狙いとしました。実際に、私も応募から渡航前に複数の体験談を読みあさることで、モチベーションを上げ、予習の手がかりを得、持ち物を準備する際の参考にしました。慶應の国際センターのHPに掲載されている体験談はもちろん、東京大学や東京外国語大学のそれにあたるHPに掲載されている報告書も大いに有益で参照しました。

 

⑴参加動機

慶應に入学して以来、1か月間パリで生活しながら、社会科学において世界屈指の地位を誇るパリ政治学院にてEUについて集中して学ぶことができるという本講座の内容に魅力を感じていました。自分の専攻は人文科学ですが、学問領域の内容以上に、海外それもヨーロッパにある名門校で学問をするにあたっての方法や視点に触れ、実際に経験してみたかったことが最大の動機です。

 

⑵プログラムの参加者と現地でお世話になった方々

慶應から18人、東大から8人、北大・早稲田大・外大・上智大からそれぞれ3人ずつの計38人が日本の大学から参加していました。帰国子女や英語ネイティブの学生も比較的多いようでした。学年は1、2年生が多く、慶應では、私が唯一の3年生で、ほかはみな1、2年生でしたが、他大学には3、4年生や院生もいました。実際、学年はあまり関係なく、選択する授業によっては1人で移動することもあれば、自然と同じ場所に向かう人がいれば流れで一緒に動くなど、多くの人とフランクに接することができました。授業を担当してくださったのは、パリ政治学院やスタンフォード大学、ロンドン大学などでも教鞭をとっていらしたり、EU諸機関にも関与している・していた経験をお持ちの名誉ある教授陣でした。

essay執筆に際しては、Sciences Poの4人の学生がtutorとしてサポートしてくださりました。正直、週1回のTutorial session(面談)くらいでしか直接話す機会がなかったので、もっと話してみたかった気もしますが、個人的にメールでessayに関する質問に答えていただけたり、サポートは充実していました。また、プログラム全体のコーディネーターの方には、頻繁な事務連絡のほか、個人的な問い合わせへの対応も迅速に行っていただけました。例えば、Sciences Poのアカウントが利用できず、図書館の本のリクエストに手こずっていたときに連絡すると、翌日にはアカウントのヘルプデスクのほうに問い合わせるように指示をいただけて、それに従ってパスワードの変更等の手続きをスムーズに行うことができました。

 

【渡航前の準備】

⑴予習

年内の事前研修のころには、Sciences Poを通じてRecommended Reading Listが送られてきて、ウェブページはリンクもはってあったので、電車の中など暇な時に少しずつ読んだりしました。研修1ヶ月前くらいには、毎日のスケジュールが届き、そこに記載されていた各授業のテーマ(“Contemporary History in Europe”、“European Foreign Policy”など)から内容を予測し、前述のReading Listや文献を読みました。Recommended Reading List以外に自分が使った資料で役に立ったと思うものを挙げておきます。

・Simon Userwood, John Pinder. (2018). THE EUROPEAN UNION A very short introduction. Oxford: Oxford University Press.(これは現地にも持っていき、参照したりすることもありました。)

・中村民雄『EUとは何か[第3版]』、信山社、2019年。

・羽場久美子『EU(欧州連合)を知るための63章』、明石書店、2013年。

渡航前は手探り状態で何をしたらよいかよくわかりませんでしたし、実際にプログラムを終えても、予習は直接現地で学んだ内容と重なることばかりではなかった、かつ現地で学んだ内容がかなり教授陣の専門に依拠していたことから、正直何をすればよかったかこれといったことはわかりません。とはいえ、何もしないよりはするに越したことはなかったと思います。

essayの準備

essay執筆はこのプログラムの成果として最も大きなものだといえます。2500words程度なので、英語ネイティブや英語で書きなれている人にとっては、数日で書ける字数だとは思いますが、英語能力に関わらず、テーマ設定、構成、推敲には時間をかけるほど、essay自体のQOLは上がり、少しでも早いペースで進められているほうが物理的にも精神的にも余裕が持てると思い、日本にいる間にテーマに目星をつけていきました。

テーマの設定は、“a topic related to one of the two chosen elective blocs”という説明書きがあったものの、全体のオリエンテーションでは、EUに関することなら何でもよいと言われました。私は、テーマの候補を2つ用意し、どちらにすることになっても資料がある程度手元にある状態からスタートできるように、慶應のKOSMOSから利用できるデータベースナビのJSTORやPro Quest等を利用して使えそうな論文を各テーマにつき10本弱集め、一部目を通していった上で、仮のOutlineを考えていきました。

また、writingの作法や引用(ibid, op. cit.なども)についても一通り復習しておきました。その際には、以下を参照し、現地にも持っていきました。

・吉田友子『アカデミックライティング入門 第2版―英語論文作成法―』、慶應義塾大学出版会、2015年。

なお、英語文献の扱いに慣れている人は存じていると思いますが、citation soft(Mendeley, CitationMachine.net, CiteThisForMe.com, Google scholar, Zooteroなど)についても余力があればどれか一つ使えるようにしておくと良いと思います。私はMendeleyを常用しているので、そこで論文を集約し、読みながらメモを取ったり、Bibliographyを作成するときに役立てていました。

【プログラムでの学習】

(最終週がコロナウイルスの影響でキャンセルになってしまったのでそれ以外の内容です。)

EUに関する授業(1コマは2時間)

全員共通の授業(歴史、Brexit、EU諸機関、環境問題、ジェンダーと労働市場、金融危機)が8コマ、3つのブロック(経済、国際関係、移民とアイデンティティ)から2つを選択する授業が各ブロック5コマありました。

内容は、日本の高校地理のヨーロッパの項や高校世界史のヨーロッパ現代史に相当するような基礎的な内容からEUの最新の政策(Green DealやCommon migration policyなど)、経済の基礎理論や法体系に馴染みがないとほぼわからないといった専門的な内容にまで及びました。基本的には、教授のプレゼンテーションを一方的に聞く講義形式ですが、質問は常に歓迎されました。質問していたのは、比較的同じ人ばかりだったり、後半、授業を受けることに慣れてくると、積極的に授業に参加する人と決してそうではない人で二極化していた点も否めないですが、できる限り質問する、質問までできなくても扱っている内容を一通りは理解するくらいの気概があればあるほど、授業を受けるのが楽しくなるように思いました。

個人的には(非帰国子女、長期の海外留学・学習経験等もなし)、英語の聞き取りに所々難があったものの、その場で全くついていけないということにはほぼならず、細部は録音機またはiPhoneで録音していた音源を聞き直すことで理解を補っていました。帰国子女で、それこそ英語がネイティブレベルの人の場合は、録音するほどでもないかもしれませんし、すべてを聞き直すほどの時間的余裕はなかったのですが、録音を聞き直すことで英語での言い回しや論の展開の仕方なども復習できたので、私は録音して良かったと思っています。

また、メモを取る際、PCでtypeするか、紙に書きとるか、実際に試してから決めようと、どちらのツールも準備していきました。はじめは紙でノートテイクしていたのですが、あまりにも教授の話すスピードが速く、手書きが追いつけない、かつプログラムの中で自分自身が英語をtypeすることに慣れてきたこともあり、選択の授業に入ってからはPCでメモを取りました。参加者全体では、PCか紙か、若干前者が多いくらいでした。なお、ほとんどの授業で使われたスライドは、コーディネーターの方を通して、全員に送られてきたので(万が一送られてこない場合は問い合わせると良い)、授業中はスライドを写すよりも教授の話に集中して話の筋や流れをメモし、復習でスライドを見たときに、スライドにあるキーワードを教授の話す言葉でつないでいけると良いかと思い、可能な限り実践していました。

3週目後半には、授業内容に関するmidterm testがありました。約20問、multiple choiceだとは聞いていましたが、内容については全く予想できず、他の学生とヤマを張ろうかとしたりもしました(笑)。持ち込みは不可でしたが、円卓のテーブルで行われ、解答自体は30分もあれば十分なものだったので、比較的ラフなものだったと思います。しかし、内容は決して簡単とは言い難く、割と細かいことも出題されました。

⑵フランス語の授業:5コマ(レベル別)

初めのプレイスメントテストでレベル分けがされました。おおよそ、全くフランス語を学んだことのない人はテストを受けるまでもなくbeginnerクラス、第二外国語でフランス語を選択している・していた人がintermediateクラス、フランス語の語学学校に通っていた経験があったり、フランス語を5年以上も学んでいる人がadvancedクラスになっていました。私は、プレイスメントテストでwritingを褒められるも、あまりに喋ることができず、自分のspeakingに対する怠慢を大いに反省しました。結局、intermediateクラスに配属されました。(聞くところによるとadvancedクラスはフランス語を学ぶというよりも、フランス語「で」学ぶ感じだったようです。)

intermediateクラスでの授業は、speakingが中心で、週末の出来事や日本とフランスの違い、パリの観光地など、お題が与えられ、個人ないし数人で内容を考えて、発表という形でした。表現がわからず、英仏辞典で調べて発言すると、先生からよりsimpleな表現やpopularな言い回しを教えていただき面白かったです。正直、授業自体の回数が少ないこともあって、授業がフランス語の上達に直結するというわけではなく、気楽な感じで楽しく参加していましたが、今後の学習のincentiveにはなりました。

essay執筆

1週目に全体に対するオリエンテーションのような形で、執筆の流れ、フォーマット、引用の仕方等の説明があり、2、3週目には担当のtutor(約10人に1人のtutorがつく)とのTutorial session(1人10分間の面談)やメールでのOutlineやBibliographyの提出をこなしながら書き進め、最終週に提出するという流れでした。(コロナウイルスの影響で提出自体の締め切りは帰国後になりました。)

基本的に個人作業で、何回か課題のdeadlineはあるものの、遅れたからといって救済策があるわけではありませんし(多分)、(間違いなく)早めに進めたほうがTutorial sessionも有意義なものになると思いました。私は、1週目のオリエンテーションの直後にテーマを2つの候補から1つに決め、仮のOutlineとBibliography、構想をtutorに送って確認してもらった後、1週目後半から3週目のTutorial session前日までの間に、図書館やデータベースでの文献収集、文献の読み込みとメモ、本文執筆を進め、初稿を完成させました。ここまでは、周囲と比較しても早いペースだったかと思います。3週目のTutorial sessionでは、フォーマットに関することやオーバー気味の字数はどこを削って調整するとよさそうか等を相談し、その後提出までの約1週間、何度も読み直し、文献を追加して論理を補強し、一部構成を変更し、英語の表現を洗練させ・・・というように時間の許す限り推敲し続けました。出発前はかなり心配していた課題であり、実際、プログラム期間中もessayのことで常に頭が一杯でしたが(このような話を他の参加者としたこともありました)、毎日辛抱強く進めることで、skimming・readingやsummarizingの技能は鍛えられ、ある程度は納得がいくものを書くことができた点では充実感がありました。

帰国から数週間後、個人へのフィードバックとスコアがメールで届きました。私に関しては、いくつかのinformal languagesと複数のargumentsを並立させるmannerには指摘をいただき、research、sources、citation、structure、全体的なQOLは概ね高評価でした。スコアは20点満点で17点、全体で2番目のハイスコアをいただきました。(なお、このスコアはmidterm testの成績も加味してあると言われましたが、実際にはessayのほうがウエイトが高いのは間違いないように思われます。それ以上のことはわかりません。)他者からの評価がすべてではないですし、自分のcomitmentとその上で見えてくる課題と反省に目を向けることは生産的かつ不可欠かもしれません。しかし、非帰国子女という言い訳はしないにしても、とりわけ英語力に長けているわけでもなく、周りには英語力、思考力において優秀な学生ばかりという中、自分に評価されたところがあったということは素直に嬉しいですし、このプログラムにおける自分の成果だと思いたいです。(基本、完璧主義なので、あと3点・・・と少しは思いますが、そんな贅沢言っていられませんし、どんなに頑張っても終わりなき道なのが学問のいいところだと思っているので、十分に満足しています。)

Le Havreへのフィールドトリップ(日帰り)

Sciences PoのLe Havreキャンパスの学生と午前中はdebate、午後にはÉtretatの観光をしました。

Debateは、事前にトピックが与えられてはいたものの、明確に賛成・反対がとれるようなものではない?トピックだったり、当日行ってみるまで形式がよくわからなかったり、いざやってみても決して時間が十分ではなく、そこまで構えたものではありませんでした。自分から手を挙げないと発言する機会さえもなくすぎていきますが、せっかくの機会、自分が発言したことは良い経験の一つだったかと思います。

Étretatの観光では、雨天で寒いとしか言えようのない中、良い運動なのではないか(笑)というくらいの崖を登り、登った先には絶景が見られて感動しました。また、現地の学生とも仲良くなり、特に語学が趣味で数か国語を操る学生と私自身が趣味で学んでいるラテン語の話をできたことは嬉しかったです。

【大学の設備・学習環境】

⑴キャンパスについて

宿泊先の最寄駅Cour St-Émillionからキャンパスの最寄駅St-Germain-des-Présまで、Châtelet駅での1回の乗換えを含めて約20分と少しメトロに乗りました。メトロに乗り放題の定期は5日間連続で有効なもの(つまり平日分相当)が初日に4枚配布されたので、なくさないようにその週の分以外はホテルのセーフティボックスで保管しました。

慶應のように、キャンパス内に建物が密集しているのではなく、街中にキャンパスが点在していました。授業と授業の間にかなり歩いてキャンパスを移動することもあり、慣れないうちは建物のある道の番号ともらった地図(パンフレットについていた、iPhoneで写真を撮っておくと便利だった)・グーグルマップを照らし合わせながら移動しました。また、入り口で必ず学生証の提示が求められるほどセキュリティに配慮されていました。

キャンパスの建物のほとんどがルーブル美術館まで徒歩約10分少々という恵まれた立地にあり、とある日の朝、大学周辺でのprotestで校内閉鎖、授業休講を知ると、その足でルーブルへ、なんていう不思議?かつ贅沢な経験もしました。

⑵図書館

プログラムが始まってすぐにオリエンテーションがありました。図書館のシステム全般は本当に素晴らしく、パリで最も欲しいと思ったものだったかもしれない(笑)と思うほどです。多くの文献は書庫にあり、自分のアカウントからリクエストすることでカウンターに到着(カウンターに届くとメールでお知らせが来る)、そこで学生証を提示すると貸出可能というシステムでした。リクエストしてからカウンターに届くまで、早いと数十分、遅くても半日ほどという素晴らしいスピードでした。オンラインの文献も豊富で、論文のfull-textダウンロード可能数は慶應のデータベースナビの上をいくのではないかというQOLに日々感動してばかりでした。印刷には学生証が必要で、規定枚数まではfreeでした。(1ヶ月ではほぼ超えることはないと思われる。)

閲覧席は学生数に対して明らかにキャパが不足していて、昼間にはベンチやソファーまでも一杯というフロアもあり、地べたに座っている学生もいました。比較的、地下や上位階は空いていることもあって、現地の学生に交じって自習するのは快適でした。

【パリでの生活】

⑴治安・貴重品の管理

事前研修でも話があった通り、花の都・パリの治安は決してよくありませんでした。とにかく貴重品だけはなくなっては困るという一心で、マネーベルト(ググれば出てきます)にパスポート、クレジットカード、ホテルのルームキー、20ユーロ程度の現金を入れて肌身離さず持っていたほか、斜め掛けの鞄に財布、iPhone、モバイルバッテリー、Wi-Fiを入れ、鞄を掛けた上にコートを着ていました。持ち歩く現金はその日に使う分くらいにし、セーフティボックスで保管していました。服装や鞄も華美なものはできるだけ避け、現地の人になじむようにしていました。

慣れるまでは複数人で行動し、慣れてくると昼間は一人で行動しても常に警戒していれば問題ありませんでした。最も警戒心を持っていたのは、メトロ内、乗換の駅で、なるべく足早に歩き、常に鞄のチャックを握りしめ、19:00に授業が終わる日は必ず誰か一緒に帰る人を探し、一人ではメトロに乗らないようにしました。おそらく、一人でいるのも危ないけれども、5、6人の集団ではしゃぎすぎるのも観光客に見えかねないと感じました。

⑵宿泊先

Sciences Poが手配してくださったホテルに宿泊しました。基本的にプログラムの参加者全員がそこに宿泊していたので、大学をまたいで親睦を深めることができるし、何よりも安心感がありました。2人一部屋で、誰が相部屋になるかは行ってみるまでわかりませんでした。基本的に同じ大学同士とは聞いていましたが、私は早稲田大学の1年生と同室でした。これがまた功を奏し、お互いが違う大学同士であることをきっかけに、プログラム開始直後から大学の枠にとらわれず、一気にたくさんの人と関わることができたように思います。部屋に2人でいるときも過度に気を遣うことはなく、基本的にお互いが好きに過ごし(それぞれで課題をやったり、ネットをみたり、ご飯を食べたり)、お互いに全く違うことをしていながら会話がはずむなど、快適に暮らすことができました。相部屋の彼女は、海外経験が豊富で刺激的な話をたくさん聞かせてくれて、プログラム半ばごろ、いつの日だったか、お互いがルームメイトで良かったと言い合えたことは、本当に嬉しかったし、素敵な巡り合わせだと思いました。

アメニティに関して、あるかどうか不安だったものであったものを挙げると、シャンプー・ボディーソープ(質は微妙らしい、私は自分で持参したものを使っていた)、バスタオル、ドライヤー、ハンガー5本くらいなどです。自炊のための調理器具や食器はたくさんありましたが、菜箸、タッパー、ラップなどは持参すると便利でした。

ハウスキーピングは週1回で、非常に綺麗にしていただけました。しかし、1回目のハウスキーピングの際、ひとまとめにしていたレトルトのごはん、ふりかけ、パスタソース、布巾、ジップロック、ラップ等がゴミだと思われたのか?盗まれてしまったのか?とにかくなくなってしまったのはショックでした。ハウスキーピングの日(フロントで予定日の確認が可能)には、貴重品はもちろん、化粧品や本などもほとんどの私物をスーツケースにしまってカギをかけていましたが、食品だけは死角になっていて、冷蔵庫の前に置いていたのがいけなかったかと思っています。

Wi-Fiは基本、高速かつ安定でした。パスワードが定期的に変わるらしく、つながらなくなったと思ったら、フロントに問い合わせて新しいパスワードを受け取ると問題なく接続できました。ただし、場所によっては接続が不安定なこともあるので、個人のWi-Fi(私の場合はグローバルWi-Fi)が重宝しました。

その他、1階の共用スペースで料理をしたり、ご飯を食べたり、勉強したりすることもできました。地下1階には有料(1回5ユーロ、正直高い)のコインランドリーとfreeで使えるフィットネスジムがありました。ジムには、マシンが5台とダンベルは5㎏のみ、チューブが数本あり、広くはないですが、気晴らしに時々利用するには十分でしたし、時には大勢で筋トレしたこともあって楽しかったです。

⑶食事

スーパーで購入するバゲット、ハム、チーズ、ヨーグルトはコスパが最高で美味しかったです。野菜も安くて美味しいものが多く、レタス、トマト、ブロッコリーあたりをよく買っていました。スーパーは最寄駅からホテルの間にあり、ついつい寄っては買い足したくなるので、食材に困ることはありませんでした。基本的に、平日の朝食と夕食は自室で簡単な調理(茹でる、炒める等)をすることが多く、冷凍食品のキッシュやガレットなどフランスらしいものも時々食べましたが、どれも美味しかったです。昼の学食にはいつも長蛇の列ができていたのでほとんど行かず、キャンパス近くにあった長居できるようなカフェで勉強しながらバゲットサンドを食べたり、お気に入りのパン屋さんで3ユーロ前後のキッシュや1.3ユーロのクロワッサンを買うのが楽しみでした。

物価が高いと聞いていた通り、外食すると確かに高くつきました。しかし、せっかくフランスにいるので、毎週土曜日はホテルの近くでランチまたはディナーをしたり、midterm test後には、仲良くなった数人とANGELINAでお茶をし、その夜は有名なレストランLES DEUX MAGOTSでフランス料理Tartareを食べました。

また、個人的にスタバが大好きなので、ホテルの近くのBercy villageのスタバが快適で、他大学の先輩方と励まし合って勉強したことやルーブル美術館内の洒落たスタバでくつろいだことも素敵な思い出です。

⑷あきこま・休日

スケジュールを見ると、一日4コマ(つまり8時間授業)もあるという過酷な日があると思えば、全休になる日やTutorial sessionのみの日もあるなど、授業で忙しすぎることはなく、自由時間はかなりありました。その使い方によって、観光を充実させるか、勉強やessayに力を入れるか、が変わるようでした。参加者の間でも様々で、毎週末遠出したり、毎日のように観光に出かけたり、旅行に近い楽しみ方をする人もいた一方、週末も図書館に通ったり、ホテルやカフェにこもって驚くほど熱心にessay等に取り組む人もいました。どちらが正解などはなく、自分でどのような1ヶ月にしたいのかをある程度考え、周りに流されすぎず、ときに皆と遊び、ときに1人で集中して勉強する時間を取り、自分のペースで過ごすのが良かったのではないかと思います。

私はどちらかというと後者のほうで、もともと最終週には観光もたくさんしようとしていたところ、コロナウイルスの影響で早期帰国になってしまったので、エッフェル塔にも凱旋門にも行けませんでした。平日の放課後はホテルで復習やessayに取り組み、週末も勉強していたことが多かったのですが、Sciences Poの学生同等の貴重な身分を存分に活用するという目的は十分に果たせたことに悔いはないです。その分、midterm test後、ANGELINAではこれまで食べたことのある中で最も濃厚なモンブランを食べたり、ギャラリーラファイエットで店員さんにシャンパンをいただいたりといった楽しい時間はより一層輝かしい思い出に感じられています。ルーブル美術館にはSciences Poの学生証を提示すると無料で入館でき、2回足を運びました。

【プログラムを通して得たこと】

⑴ネイティブの英語に近づきたいという思い、同時に日本語も磨きたいという思い

帰国子女や英語ネイティブの学生が比較的多い中、彼らと比べて、英語のwording感覚やスピード、発音含めた流暢さにはコンプレックスを感じざるを得ませんでした。特に発音については、帰国子女でないことを言い訳に改善する意思と努力が明らかに欠落していた自分への甘さをひしひしと感じました。しかし、Le Havreでのディベートに向けての準備で、他大学のある帰国子女の学生が会話の中で何気なく口にした「発音気にして喋らないのもったいないし、そんなの日本人だけだよ」の一言が胸に刺さり、自分の発音が恥ずかしいからと黙っている場合ではないと感じましたし、同じく非帰国子女の日本人学生や必ずしも英語が母語ではない現地の学生でも、自分の英語で臆せず話している人にはやはり刺激を受けました。

ただ、発音の良さはどれほど聴いてもらえるかに多少なりとも影響しているし、それは今後、自分がどのように他者と学問をしていくのかという立ち位置にも関わると思うので、ネイティブに近づくべく、妥協のない努力を続けていく必要があるのは間違いありません。本気でネイティブかつ専門性の高い知識人と対等にわたりあえるような英語と思考を身につけるための鍛錬を今後の課題としたいと思います。

その際には、日本語と英語を、単に対訳に落とし込もうとするのではなく、一方の言語で表現できることを、もう一方で最適かつ不自由なくに表現できるようになりたいです。それができたなら、良い意味で非帰国子女の日本人だからこそできる表現、すなわち成果を世に問うことが可能になり、自分が学問をする一つの価値を表明できると考えるからです。そのためには、英語でも日本語でもひたすら読み書きに励み、アカデミックな世界での言語運用能力を磨いていきたいです。

⑵生のフランス語に触れる経験とフランス語学習の意欲

英語以上に使うことを意識して学ばないと何も身にならないことを痛感し、これまでのフランス語学習の怠慢を思い知らされました。特にlisteningとspeakingに関して、挨拶やお店で交わす簡単なフランス語、駅のアナウンス以外で聞き取れたと言えるフランス語はほとんどなく、困ったときにはよほどのことでない限り、英語に逃げてしまえたので、授業でも街中でもいざフランス語で話そうと思っても、瞬時に言葉にするのが難しく、情けない思いをするばかりでした。

しかしながら、苦い思いだけではなく、毎日フランス語が交わされる中にいると、教科書的に“Bonne journée ”、「良い1日を」など機械的に覚えてきた言い回しが自然に交わされる場面に幾度となく出くわし、自分の中でフランス語を使う感覚を多々感じられたことは収穫でもありました。結局は、今後のフランス語学習に対する意識を改めようと決意するに至りました。

⑶素敵な出会い

このプログラムには国内トップレベルの多くの大学から優秀な学生が参加していて、勉強面で刺激を受けたほかにも、ご飯に行ったり、一緒に遊んでもらったり、知り合ってたった1ヶ月弱とは思えないほどの密な関係になれました。今後、日本でも会おうという約束をしているので、そのときお互いがどのように成長しているか、この1ヶ月をどのように振り返れるのか楽しみにしていたいと思います。

⑷自信と課題、当たり前の偉大さという実感

そして、この留学で得た成果には、自分への自信と当たり前の蓄積がいかに偉大であるかという実感もありました。たかが1ヶ月で何がどのように変わるのだろうかと思いながら始まり、淡々と、しかし一日一日を慈しむように過ごしていたらあっという間に過ぎてしまいました。正直、最後までこれといった大きな変化はわかりませんでした。しかし、留学という非日常にあって、特別に気負いすぎることもなく、自分のペースで落ち着いて、適度に自分を律しながら、6、7時間の睡眠時間を確保し、集中して勉強できたことは成果の一つかと思いたいです。Sciences Poの授業やその復習、essayに対して、自分のcapacityでできる限りのcommitmentはできたので、思い描いていた幸せな1ヶ月にできたことは自信にもなった気がします。

また、語学力と思考力に多くの課題を残しつつも、現状よりもっと上に行くには、何かを特別に変えるというよりもむしろ目の前のことを腐らずやっていくことが不可欠だと実感しました。すなわち、essay執筆の際のアカデミックな作法やcitation softの使い方、論文検索のスキルなど、自分が大学3年間、慶應で地道にやってきていたことは曲がりなりにも自分の血肉となっていて、それらが今回の短期留学の下地にもなっていたと感じられたことは、この一か月の成果であると同時にこれまでの大学生活で蓄積してきた成果、財産としても前向きに捉えていきたいです。その意味で、大学3年生も終わろうとしている今、パリ政治学院での短期留学は、自分にとっては最適なタイミングであり、選択であったと心から思います。だからこそ、今後も自分が身を置いているところで可能なこと、獲得できることを最大化し続けられる努力と姿勢でもって学問に励んでいきたいです。

最後に、コロナウイルスの影響で早期帰国となり、残念な気持ちもありましたが、これも一つの経験だと考えたいと思いますし、最後の数日間、落ち着かない中、フライトの変更など迅速に対応していただいた慶應義塾大学学生部国際交流支援グループ担当の方々およびパリ政治学院のコーディネーターの方に大変感謝しております。本当にありがとうございました。

                       

(LES DEUX MAGOTSでのディナー)                      (Tea Time@ANGELINA)                      (キャンパスから徒歩数分、ルーブル美術館への道)

                            

(キャンパス近くにあるお気に入りのカフェ、      (図書館のカウンター)

勉強&昼食場所に最適でした)

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