パリ政治学院春季講座 体験談16
体験談16 2023年度参加 法学部3年 K・Mさん
【はじめに】
海外経験が全くなかった私は、大学生のうちに一度は留学を経験して視野を広げたいと思っていました。そうしたなかで、こちらの短期海外研修プログラムを受講すれば、今まで学んできた英語やフランス語を活かし、QS世界大学ランキング政治分野で3位の大学において、(世界的にみて歴史的快挙といえる政治経済統合体である)EUの歴史や制度、法体系、諸政策について詳しく学び、その知見を今後の研究や仕事に活かすことができるのではないかと思い、応募しました。振り返ってみると、他の学生(特に他大生)の語学力や知識量、将来の進路に刺激を受け、今後の学習の大きなモチベーションになったと考えています。
併せて、日本人の学生とともに行動できるため心理的障壁が小さい点、期間が短すぎず、長すぎない(休学が不要である)点、パリ中心部での生活を体験することができる点、周辺国の観光を同時に楽しむことができる点からもこの講座をおすすめしたいと思います。
ここに、私が出発前に知っておきたかったことをまとめました。必要なところを取捨選択して読んでいただけると幸いです。なお、あくまでも2023年度の情報であることには注意してください。
【ある一日の様子】
7時に起床し、7時半に朝食を食べ、9時20分にホテルを出発し、10分間ほどメトロに乗ります。10時からEU法の講義を2時間受け、1時間半の昼休みを挟み、13時半からその続きの講義を2時間受けます。16時15分からはフランス語の講義を2時間受けます。その後は自由時間です。私は図書館やデパートに寄り、20時頃に夕飯を作り始めました。風呂や洗濯、講義の復習を終えた後、0時頃には就寝できるようにしていました。
【カリキュラム(2023年度の場合)】
1 授業
(1) 予習
いくつかの科目は、事前に予習の資料(論文や教科書のコピー、サイトのURL)がアップされます。予習をしなければ授業に全くついていけないというほどではありませんが、折角の機会ですので、「出発前に」しっかりと予習した上で授業に臨むのがいいと思います。(というのも飛行機の中では、照明が落とされる時間が長く、読書灯をつけるのが憚られる上、高い航空券代を支払うからには、映画鑑賞に勤しみたいと思うかもしれません。パリに着いたら着いたで、最大限観光したいという意識が働きがちな上、どうしても誰かと行動を共にする時間が長く、一人で静かに勉強をする時間の確保が難しいためです。)
私は、庄司克宏先生著『はじめてのEU法』を通読した状態で授業に臨んだので、EU法やEUの制度に関する内容はよく理解することができました。
留学前あるいは後には、三田で開講される、法学部法律学科の庄司克宏先生の「EU法」「外国法演習【EU】」、法学部政治学科の小林正英先生の「現代ヨーロッパの国際関係」を併せて履修すると、理解が深まります。
(2) EUに関する科目
スライドは授業前には配布されず、授業後にアップされます。科目によっては、授業実施から1週間後にアップされるものもありました。授業中はモニターに映されるのみで、手元にスライドを用意した状態でメモをとることはできません。黒板はめったに使われませんでした。
ノートは紙でとる人もいましたが、PCでとる人が多かった印象です。頭に入りやすいという理由から、日本語でノートをとる人もいましたが、論述式試験では英語で書くことが求められるので、(理解の補助のためのメモを除き)基本的には英語でノートをとるのがいいと思います。英語のまま覚えるのが苦手な人は、試験対策としては、内容を日本語で説明できるようにした上で、それを英語に翻訳する練習をするのがいいと思います。
かなり早口な先生や声が聞き取りにくい先生、訛りが強い先生もいたので、リスニングに自信がない人は、聞き取るのに苦労するかもしれません。出発前にリスニング能力の向上や講義の予習に励み、少しでも英語を聞き取れるようにするのがいいでしょう。どうしても聞き取れないという人は、授業中はスライドの内容の理解(知らない英単語や専門用語は適宜検索する)と暗記に努め、理解できなかった箇所については、授業後に録音をスロー再生で聞き直すのもいいかもしれません。
必修科目と選択的必修科目、ティーチング・アシスタント(TA)によるセッションがあります。
(a) 必修科目
・WW2終結から現在までの欧州統合の歴史、EUの制度的枠組みに関する講義
例:シューマン宣言、コペンハーゲン基準、Brexit、EU懐疑論、民主主義の赤字
・EUの経済ガバナンスに関する講義
例:経済通貨同盟、ソブリン債務危機、コロナ復興基金
・EUの権限、機関、立法手続、法令の種類、域内市場に関する講義
・環境政策手法、環境に関する国際協力の歴史に関する講義
(b) 選択的必修科目
・EUの外交・防衛政策に関する講義
・EUの貿易政策に関する講義
・EUと移民に関する講義
・EUのグリーンディールに関する講義
・EUの経済危機に関する講義
・EUのジェンダー問題に関する講義
・EUにおけるポピュリズム・レイシズムの台頭に関する講義
(c) TAによるセッション
TAはパリ政治学院で修士号の取得を目指す現役の院生です。このセッションは全部で4回あり、TAが講義の要約をしたり、学生の質問に答えたりしてくださいます。講義で浴びてきた大量の知識を整理するのに非常に有用です。
授業の最後では、講義の内容を題材としたクイズ(匿名で参加可能)があり、これが非常に楽しいです。また、多肢選択式試験の模擬試験も実施してくださいます。
(3) フランス語(任意)
カリキュラムは、プレースメントテスト(クラス分けテスト;2時間)と4回の授業(各2時間)で構成されます。
先生はソルボンヌ大学などで言語学や文学、フランス語教授法などを専攻された方でした。
初級者用クラスと中級者用クラスと上級者用クラスがあり、どのクラスで学びたいか、出発前に希望を出すことができます。その後、メールでクラスが知らされます。今年度は上級者用クラスが用意されませんでした。大学の第二外国語でフランス語を選択していた人でも初級者用クラスを選択した人、また、初回授業の後、中級者用クラスから初級者クラス用に変更した人がいました。
私は中級者用クラスを選択しました。学生の数は8人程度でした。
私のクラスの場合ですが、プレースメントテストといっても筆記試験や面接試験があるわけではなく、実際に授業をやる中で、あまり発言できていない場合は初級者用クラスへの変更が提案されるという程度でした。
授業は、基本的な動詞の直接法の活用については習得していること、少なくとも仏検準2級レベル?(週2回の講義を2年間真面目に履修したレベル?)の語彙力があることを前提に進みました。
具体的には、代名動詞や直説法複合過去・単純未来・半過去・大過去、疑問副詞(quand, combienなど)、関係代名詞(dont, où)、副詞的代名詞(y, en)、直接・間接目的語代名詞(le, la, les, lui, leur)、比較級などの文法事項の復習を行い、実際の会話のなかでそれらを使いこなす訓練を行いました。例えば、接続詞(cependantなど)を使いこなす訓練として、フランス語でディベートを行いました。そう聞くと難しそうですが、チームで準備する時間が十分にあり、単語を調べることもできるので大丈夫です。
また、毎回の授業でフランス語のYouTubeビデオを数回視聴し、正誤問題を解いたり、内容を要約してフランス語で発表したりすることが求められました。ビデオの内容は、パリの北部・北東部に移民が多く南西部に富裕層が多いことの歴史的経緯、パリの建物の各階に住む人々の違いなど、パリ観光にも役立つ内容でした。正直聞き取るのが大変でしたが、何度もリピートしていただけたので大丈夫でした。
最後の授業では、実際に訪問した観光地(美術館など)やレストランを紹介するビデオの提出またはプレゼンテーションが求められました。
フランス語の授業については成績評価がなく、出席がプログラムの修了要件というわけでもなかったものの、学生の出席率はほとんど100%でした。授業は各回2時間もありますが、内容が大変充実していたので、あっという間に過ぎました。
ちなみに、私は最後の授業で、フランス語の先生に日本のお土産を渡しました。先生は日本を訪れたことがないらしく、日本の文化や食べ物に興味津々でした。
(4) プログラムの修了要件
(a) 出席について
EUに関する科目については、毎回(午前と午後)出欠がとられました。正当な理由のない欠席は2回までで、正当な理由が認められるのは、病気の場合(診断書の提出が必要)、出身大学の学業的な義務がある場合に限られます。また、2回の遅刻は1回の欠席とみなされます。教室は午前と午後で変わることがあり、また直前に変更がある場合もあるので、最新の情報をチェックして間違えないようにしました。
(b) 試験について
2週目に多肢選択式試験(1時間で20問)、4週目に論述式試験(2時間で2問)があります。前者は、基本的な概念の理解が問われることが多いですが、細かい知識が必要な問題も5問程度ありました。後者は、合計A4で3~4枚程度の文章を書きます。プログラムの修了のためには、少なくとも、前者で10問以上正解する必要があります。前者と後者の比率や全体的な合格点はわかりませんが、そこまで厳しいものではないように思われます。
2 文化的活動
(1) セーヌ川ボートツアー
(2) モン・サン・ミシェルツアー(要予約・別途費用が必要 バスでの移動)
このツアーが今後もあるかどうかわかりませんが、パリからバスで片道4時間というところにあり、そうそう来られないと思うので、折角なら訪れた方がいいと思います。一生忘れられないほどの絶景を見ることができました。
(3) オペラ・ガルニエ見学ツアー(現地集合 地下鉄での移動)
(4) ベルサイユ宮殿見学ツアー(現地集合 高速鉄道RERでの移動)
3 ブリュッセル訪問
1泊2日、ユーロスターでの移動です。欧州議会、欧州委員会、欧州対外行動庁を見学し(それぞれ約3時間)、職員による貴重なお話(日本とEUの関係など)を聴くことができました。1日目は自由時間が多く、ブリュッセルのたいていの観光名所は回ることができます。ブリュッセルから快速列車ICで片道1時間のブルージュ(運河で有名)に足を運ぶ友人もいました。。
【生活】
1 休日の過ごし方
パリの観光地を回るには十分すぎるほど時間がありました。万一途中帰国になったら悲しいので早めに訪れておきたいという思いと、もう二度と来られないかもしれないという名残惜しさから、複数回訪れたところもありました。
私は週末、ディズニーランドパリやロンドン(ユーロスターでの移動 片道約2~3時間)、ルクセンブルク(TGVでの移動 片道約3時間)を観光しました。その際には、イギリス専用の変換アダプタ(BFタイプ)やヨーロッパ全体で利用可能なeSIMが非常に有用でした。
なかには、国内ではストラスブールやマルセイユ、国外ではデンマークやオランダ、ローマにまで足を運ぶ友人もいました。
ちなみに、ヨーロッパの観光施設は、EU加盟国の18~25歳の者の入場を無料としているようです。パリ政治学院の学生証を提示すれば、EU加盟国の18~25歳の者とみなされるため、たいていの美術館や博物館には無料で入場することができます。一方、エッフェル塔やエトワール凱旋門、パンテオンは、どういうわけかそのようにみなされず、無料で入場することができません。エトワール凱旋門やパンテオンについては、無料開放日(毎月第一日曜日)を狙うのもいいかもしれません。もっとも、大混雑が予想されますが。
2 メトロ
パリのみならず、ベルサイユ宮殿、ディズニーランドパリ、シャルル・ド・ゴール空港などパリ近郊の公共交通(バスを含む)が乗り放題のNavigoパスというものがあります。1カ月乗り放題のもの(Navigo Mois)もありますが、これは、例えば2月17日に購入した場合、2月末日までしか有効でなく、3月に改めて購入しなければならないため、お得ではありません。したがって、1週間乗り放題のもの(Navigo Semaine)を4回、週のはじめに購入するのがいいと思います。
ちなみに、パリのメトロは日本のものとは大きく異なります。
・電車のドアは自動式のものが増えてきたとはいえ、手動式のものも多いです。例えば、レバーを引き上げるタイプ(停車してからだとそれなりに力が要るので、停車直前に引き上げると楽)、ボタンを押すタイプがあります。
・トイレはありません。
・退場時に乗車券を入れる必要がありません(高速鉄道RERは必要です)。自動ないし手動のドアから退場します。
・1号線、2号線など路線の名前が数字なので、(方面さえ分かれば)乗り換えは難しくないです。
3 治安
慣れるまでは(特に夜間の)一人での行動は控えました。観光地周辺では、ミサンガ売り(ミサンガを勝手に腕に巻きつけて料金を請求する)や似顔絵売りなどに警戒していました。エッフェル塔周辺では、「Hello. Excuse me. Can you speak English?」などとしつこく声をかけられ、サインを要求してくることもありました。地図は頭に入れた上で、堂々と早歩きで行動するのがいいと思います。一定時間スマートフォンを操作する必要があるときは、壁の前など、後ろに誰もいない場所を選んでいました。
4 飲料水
パリの水道水は、エビアン(evian)と同じくらいの硬水です(硬度約300mg/L)。硬水とはミネラルを多く含む水であり、特にマグネシウムの働きにより、人によってはお腹を壊すことがあります。私は留学が決まった頃からなるべくevianを飲むようにしていましたが、結局慣れなかったので、パリのスーパーマーケットでは、マグネシウムの含有量を見て慎重に軟水を選んでいました。軟水を飲みたい人におすすめなのは、硬度約8mg/Lのモンルークス(Mont Roucous)です。
また、個人的に気になったこととして、パリではペットボトル入りのコーヒーを全く見かけませんでした。授業中に飲みたい人は、家でインスタントコーヒーを作り、水筒などに入れて持ってくるといいと思います。
5 食事
外食は高くつくという理由から、ほとんど毎日、朝食と夕食はルームメイトと一緒に自炊しました。昼食を朝に作って持って行ったこともありました。他の部屋の学生と料理を交換したこともあり、良い思い出です。
ホテルから徒歩2分のところにモノプリ(MONOPRIX)というスーパーマーケットがありました。小麦粉やパスタ麺、卵、乳製品、塩こしょう、醤油、マヨネーズなど、たいていの食材は売っています。冷凍食品(炒飯やインドカレー)も、カット野菜も、個包装のパンもあります。
ご存知の通り、パリの物価は日本の1.5~2倍です。2人分の食材と水の買い物だけでも1日あたり約20~30ユーロ(約3000~5000円)かかりました。
値段は若干高いですが、日本の食材(カップ麺、インスタントごはん、お好み焼きセット、スナックなど)を扱うお店もあります。例えば、K-MartやKioko(京子)などです。
6 持っていったほうがいいと感じた物
箸(2~3膳)、洗面器、ビニール袋、エコバッグ(航空会社に預ける手荷物の重量が超過した場合、かなり高い料金をとられるため、超過分の荷物をエコバッグに詰め込むとよい)、スーツと革靴(ミュージカルやショー(ムーランルージュなど)の鑑賞のため)、スポンジ、常備薬、歯ブラシ・歯磨きコップ・シャンプー・リンス・ボディソープ・箱ティッシュ(ホテルにない可能性が高いため)、電源アダプタ(CタイプとBFタイプ(イギリスに行きたい人は))。
7 洗濯
ホテル内あるいはその周辺にコインランドリーがあると思います。もちろん店によって異なりますが、イメージとしては、洗濯に5ユーロ(洗剤は別途持参または購入)、乾燥に1~2ユーロです(1回では完全には乾かないことが多い)。
ただ私の場合、ホテル1Fのコインランドリーが故障中であったため、スーパーで買った洗剤と日本から持ってきた洗面器で洋服を手洗いし、部屋干ししていました。
8 部屋割り
2人部屋でした。ルームメイトは、他大学の学生である場合もあります。11月末頃に、最適なルームメイトとマッチングするためのアンケートが実施されました(質問内容:朝型か夜型か、他大学の学生でもよいか、一緒になりたい学生がいるかなど)。
9 キャンパス
パリ政治学院パリキャンパスは7区にあり、半径200m圏内に7つの校舎が点在しています(私はなかなか覚えられませんでした)。セーヌ川も近く、ルーブル美術館から徒歩15~20分という恵まれた立地です。
校舎のマップはこちらのサイトに掲載されています。(ちなみに、最寄り駅としてSèvres - Babylone駅が大学より紹介されると思いますが、13 rue de l'Universitéなどの校舎の場合、Rue du Bac駅の方が近くて便利です。)
カフェテリアでは、クロワッサン(2個で260円)がとても美味しくてよく頼んでいました。
その他にも、キャンパスには、図書館(Bibliothèque)や大学のグッズ(マグカップやTシャツ、トートバッグ、ノート)が販売してある書店(Librairie)があります。
なお、最初の1週間は、現地の学生にとって春休みの期間であったため、カフェテリアが閉まっていました。
図書館1Fでは、30ユーロ分(A4白黒で600枚分)は無料で印刷サービスを利用することができました。試験対策にも有用だと思います。
(エッフェル塔から見たパリの夜景) (モン・サン・ミシェル) (ロンドンのエリザベスタワー)
(ルクセンブルクのペトリュス渓谷) (講義で使用した教室)