ケンブリッジ大学ダウニング・コレッジ夏季講座 体験談21
体験談21 2025年度参加 法学部1年 Y・Kさん
「だってまだ3年半もあるんだから」
これは僕が留学にいってよく言われたことでもあり、すごく意識するようになったことでもある。この長いようで短い大学生活の最初にこの夏期短期留学講座に参加できたことを本当に感謝している。
1.はじめに
まず、この体験談を書かせて頂くにあたって、この夏期講座への参加費を出してくれた両親、参加を認めてくれた部活、現地で出会ったLovelyな60数名の慶應の学生達、沢山サポートしてくれたTAや学生部の皆さますべての方々に感謝を伝えたいと思う。多くの刺激を得られたあの1か月で感じたことを忘れないように記録したい。歴代の参加者の方々が実際の体験記についてはよくまとめてくれているので今回の夏期講座が例年とは異なっていたであろう点等に関しては簡単に言及するが、主には僕の感じたこと等を記録したいと思う。
2.応募のきっかけ
僕は今法学部の大学1年生である。高校時代から留学に行きたいなとぼんやりと考えてはいたものの、実際に行く機会をなかなか掴めずにいた。そんな中で、大学に入学してすぐのタイミングでこの短期留学のプログラムを知り、締め切りギリギリになって応募を決めた。応募資格が一般的な留学プログラムと比べ比較的低かったこともあり、たまたま応募資格を満たしていたことも功を奏した。僕の場合は、高校1年生時に取得した英検準一級の資格で応募した。また、その他の書類に関しては大学2年生以上であれば成績表を送ればいいので簡単だが、大学1年生に関しては出身高校の成績表を送らなければならないので事前の準備が多少必要である。締め切りギリギリに応募を決めた僕は本当に締め切りに間に合うか間に合わないかという土壇場で応募したもののまさか本当に行けることになるとは思ってなかった。正直、プログラムへの参加が決まったとわかったときは嬉しかったのはもちろんだったが、それ以上に様々な点に関する不安感の方が大きかった。僕はIR(International Relations)を選択していたためイギリスやヨーロッパ関係の国際事情を事前に調べて臨んだ方が良かったのかなと考えたり、英単語の勉強をして臨んだ方が良いのかなと考えたりもしていたが8月9日に出発するという実感が全くないまま5月、6月と過ごし7月に入ると期末試験の勉強の為、それどころじゃなくなり結局事前勉強はあまりせずに出発の日を迎えることになった。
3.現地での1か月
結論から言って、あんなにも充実している1カ月はこの4年間でもう経験できないと自信を持って言える。8月9日、不安な気持ちでいっぱいで一人集合場所の羽田空港第2ターミナル国際線ロビーでたたずんでいた僕にこんなこと伝えても正直信じられないだろう。6月に行われた唯一メンバーと顔合わせが出来るタイミングでは黒髪でおとなしそうな印象だった4年生が金髪になっていたり、すごく真面目そうな印象の4年生がちょっと遅刻してきたりとこんな人達と仲良くなれるのか正直心配していた。ただ、1カ月でのケンブリッジでの経験を通じ本当の友達に出会うことができたと帰ってきた今は確信している。あの1カ月で何を経験したのか紹介しようと思う。
3-1.現地での授業
1週目の流れについては2024年の体験記を拝見した限りほとんど同じようだったので省略させていただく。興味がある方は、そちらをご覧ください。僕はありがたいことに3段階の内おそらく1番上であろうクラスに振り分けられ、レベルの高い仲間たちと共に授業を受けBritish Englishに耳を慣らすこともできたよい1週目だったのではないかと考えている。
2週目以降はストランドごとに分かれ授業が行われた。各ストランドで専門の先生が招かれ教えていた。僕の学んだIR(International Relations)の教授のPeter Dixonは元イギリス空軍の軍人でドイツの国防省に務めた後、現在はケンブリッジ大学で国際関係のコースディレクターを務めている方だった。このコースを選んだ理由としては、このテーマが一番僕にとって馴染みがあったことに加え、ウクライナ問題等についてヨーロッパ圏の意見をより深く知ることができるのではないかという点があげられる。僕が特に印象に残っている授業について紹介したいと思う。Peaceとはどのようなものなのだろうかというテーマの授業だ。Peterの意見では、Peaceとは一つではないということだった。単にPeaceと言ってもPositive PeaceとNegative Peaceの二つの状態があり、どちらも戦争や暴力がないという点では共通している。そのうえで何が異なっているかというとPositive Peaceの場合は、暴力がないだけでなく教育・福祉・人権・信頼関係などの構造的な問題が解決され、持続的な平和が築かれている状態である一方、Negative Peaceの場合は、戦闘や直接的な暴力が止まっているだけで根本的な対立や不平等は残っているという状態を指しているという点だ。つまり、Negative PeaceからPositive Peaceへとどのように移行していくかが平和構築の核心であるというテーマだった。僕はあの授業以前は、ニュースなどで「平和」と聞くと、当たり前に銃や戦闘がないことを思い浮かべていたが、実際には人々の心や社会の中にある不平等や不信をなくしていくことが本当の平和につながるのだと思った。このようなテーマ等について2週目および3週目の前半は詳しく学習した。
3週目の後半からは各ストランド内で更に少人数の3グループに分かれ、各グループ20分のプレゼンテーションの準備及び発表を行った。IRのテーマはPeterに定められた①日本の外交に影響を与えた要因 ②日本と朝鮮の関係 ③日本と中国の関係 の3つから僕たちは①の担当となりプレゼンを行った。準備時間は余裕があるくらい用意されていたので全く問題なかったが、いざ自分たちのグループの発表となると非常に緊張した。60.70人もの人の前でしかも英語でプレゼンを行うという経験が初めてだったため、話し始めた瞬間に覚えていたスクリプトは全部忘れてしまった。凄く焦ったし緊張したしでも、棒読みしてはいけないしで全然ダメだった。だからこそ4週目のプレゼンはもっと練習して完璧な状態で挑もうと決めていた。
4週目は班のテーマに対する考えをまとめたポスター作成と、全ストランド前で発表するプレゼンテーションが中心だった。ポスター作成は、SDGsに関連させる条件のもと、僕たちは"How we can change from negative peace to positive peace"というテーマで行った。ちゃんと練習し準備したおかげで緊張はしたが、最後までaudienceの方を見て自分の中では満足に発表ができたと考えている。
この4週間でリスニングはもちろん特に、プレゼンおよびスピーキングのスキルが向上したと考えている。自分の話す英語に自信を持つことができるようになり、この自信を失わないように今後も英語学習を継続して行っていきたいと思う。
3-2.休日の過ごし方
僕たちがイギリスにいる間計4回の週末があった。到着したのが土曜日の夜10時頃。そしてその翌日の日曜日は僕たちを様々な面から支えてくれたTA達と交流を深めた後、ケンブリッジ市内を案内してもらった。例年の体験記にも多く記載されているが、皆到着翌日には何かしらのケンブリッジグッズを手に入れ、翌日からの授業で身にまとっている人が多く見受けられた。帰国するまでには皆ケンブリッジパーカーを購入していたのではないか?
2週目の土曜日はTAさん達が企画してくれたロンドンツアーに参加した。チャーターされたバスに乗りロンドンへ向かった。ロンドン・アイの近くからスタートしたツアーはテムズ川を渡り、ビッグベンを通り、セントジェームズパークを抜けてバッキンガム宮殿前を通って最終的にナショナルギャラリーの前で解散するツアーだった。僕はカップルでTAとして参加しているペアのツアーに参加したが、本当に2人はいいコンビで参加者みんな2人の事が好きになったと思う。解散後はBack to the futureのミュージカルを見てケンブリッジに帰る予定だった。ただ、ロンドンに来たからにはロンドンバスに乗らずには帰れないだろうということで急遽保護者のように僕のことを世話してくれていた4年生1人を道連れに計10人以上でロンドンバスツアーに参加した。この時期のロンドンは太陽が沈むのが21時ごろだったためちょうど夕焼けに染まったロンドン市内を開放感溢れるロンドンバスから眺めることができ感動した記憶は忘れられない。結局この日は急遽予約した某テレビ番組イッテ〇で出てくるようなボロホテルに泊まることとなりこれもまた色々といい経験になった。翌日曜日は、友人2人と3人で前日同様にロンドン市内を観光した。朝はキングスクロス駅の9と4分の3番線の前で記念写真を撮影し、バッキンガム宮殿前で行われるパレードへ。その後ハロッズでイギリス最古のエスカレーターに乗車したり、ノッティングヒルにあるポートベロー・マーケットでショッピングをしたり、ナショナルギャラリーに行ったりして夕方に同様にロンドン市内でアフタヌーンティーを楽しんでいた友人たちと合流してケンブリッジに電車で帰った。その日の夜にはケンブリッジ市内で"Flat iron"というステーキ屋さんを訪れた。最終的にこの店には計4回もお世話になった。そして日本に帰ってきた今そこのトリュフマカロニチーズが懐かしくてたまらない。ぜひ来年以降参加される方々には通い詰めて頂きたい。
3週目の土曜日は先週同様にTAさん達が企画してくれたツアーでOxfordを訪れた。ケンブリッジと同様に学問と日常が溶け合った空気感をもつオックスフォードは非常に落ち着きがあり過ごしやすいだろうなという印象を持った。映画ハリーポッターの大広間のモデルにもなったクライストチャーチを実際に訪れることもでき、非常に充実した時間だった。その日はそのままロンドンに電車で向かい、ビッグベンの前で写真を撮ったり先ほども登場した"Flat iron"で食事をしたりと観光を楽しんだ。翌日曜日は日本人の方がCotswoldsと呼ばれる湖水地方をガイドしてくれるツアーに友人3人と計4人で参加した。Cotswoldsはイングランド中西部のロンドンから車で2時間ほどの場所にあり、多くの集落や村から構成されていてそれぞれの集落が特徴を持っている印象的な田園地方である。「イギリスで最も美しい村」と呼ばれるBiburyという村や「コッツウォルズのベネチア」と呼ばれるBourton-on-the-Waterという村など計4つの集落を訪れた。この経験はイギリスの文化・歴史・価値観を体感的に学べる良い経験となり、人間らしい生き方とは何か深く考えさせられた。
4週目の土曜日は朝からロンドンに行き、大英博物館を巡った。教科書でしか見たことのない貴重な作品が所せましと並べられていて、時間が足りないくらいの充実感だった。その後、僕の推している日本のサッカーチームからこの夏トッテナムに移籍した高井選手がもしかしたら見られるかもしれないという可能性にかけてトッテナムまでプレミアリーグを見に行った。高井選手が出場することは無かったが、幼稚園から小学校6年生まで8年間サッカーをやっており、今もサッカー観戦は大好きな僕にとっては憧れだったプレミアリーグの試合を観戦することができ、展開の速さ、ピッチとの距離、スタジアムの雰囲気すべてに感動した。試合終了後は、友人と共にLondon St Pancrasまで向かいそこからユーロスターに乗車してベルギーに向かった。翌日は丸一日ベルギーを観光したが、僕がベルギーを訪れて改めて実感した点がある。日本がいかに平和であるかという点だ。日本で暮らしている僕たちは自分たちの生活がいかに恵まれているのか?いかに安全なのか?という点を忘れてしまいがちである。ベルギーに到着し駅前でUBERを待っている10分弱で僕たちの周りにはタバコのようなものを咥えた(タバコであってほしい、笑)高身長の黒人がぶらつきだした。UBERから深夜の路上を見るとまだハイハイをしている赤ちゃんを抱えた母親とその家族が当たり前のように生活をしていた。僕はそんな家族のホームレスを目にした経験はなく、いかに恵まれて育ってきたのかを実感させられた。UBERの運転手さんはテスラに乗っている一方、家族で路上で生活している人々もいる。そんなベルギーの状況からははっきりと貧富の差を理解することができた。
「ベルギーって噂には聞くけどやっぱり危ない国なのだな。気を付けよう。」と、感じた翌朝UBERに乗ると、彼ら家族やホームレスどころか背の高い黒人たちも誰一人姿を消しておりただ静かな日曜日の朝が広がっていた。この昼間の静けさからは全く想像がつかないほど治安が悪かった深夜のブリュッセル。この経験を通して、僕は「平和」とは当たり前にあるものではなく、人々の努力や社会の仕組みによって支えられていることを学んだ。ブリュッセルの夜と朝のコントラストは、世界にはさまざまな現実があることを教えてくれた。だからこそ、日本という安全な国で暮らせていることに感謝し、今後はその平和を守る一人でありたいと強く感じた。
4.留学を経て僕が今感じていること
あの1カ月で僕は様々な刺激を得られた。まず、当たり前に言語学習へのモチベーションである。留学に行く前から言語の大切さは理解していたつもりではあったものの現地に実際に行ったことで自分の英語がどれくらい通用するのか実感した部分もある。正直全然通用しなかったというのが僕の本音だ。教授が言っていたこともまぁまぁ分かったし、その後のTAとのSupervisionでも自分の英語を使ってdebateをすることもできた。でもやっぱりリスニングにしてもスピーキングにしても何か足りないなと感じる機会は多かった。僕は自分自身が英語自体に慣れていないのではないかと考えた。帰国後、僕は英語を生活の一部にするために英語の映画やドラマをよく見るようになったし、留学前は全然聞かなかった洋楽もすごく聞くようになった。(これにはTAさん主催のカラオケナイトという凄く楽しいイベントにてみんなで洋楽を流して飛び跳ね踊りまくったといういい思い出も影響している。) 秋学期の履修登録でも必修の2クラスに加え英語の授業を追加で2クラスもとった。両方のクラスにたまたまケンブリッジで1カ月を共にした友人が居合わせたことは非常に驚きである。また、言語学習のモチベーションと言えば英語に限られるものではない。僕は高校時代2年間フランス語をやっていて高校3年時には仏検3級を取得していた。そのため、フランス語がメインで話されているベルギーを訪れることをかなり心待ちにしていた。しかし、いざベルギーを訪れてみるとほとんど忘れてしまっていた。正直半年やらないだけでこんなにも忘れてしまうのかとショックを受けた。片言のフランス語しか話せない自分を変え、より習得したいという気持ちで秋学期はフランス語の授業も2単位受講している。要するに英語4単位、フランス語2単位、スペイン語4単位の計10単位外国語の授業を秋学期は受けている。かなりしんどいがこれを続けられているのにはわけがある。この夏僕が仲良くさせてもらっていたのは、主に4年生だった。就職先が決まり、学生の間に行きたかったけれど、タイミングを逃していけていなかった留学に最後のチャンスで行こうということで参加していた4年生達は年が僕とは3つ以上離れていることもあり、本来ならなかなか出会うことは無かった人たちである。3年以上早く生まれている彼らは僕にはない視野の広さ、経験をもっていて話をしているだけで本当に楽しかったし学びになることばかりだった。彼らと話していて特に僕にとって刺激的だったのが彼らの就活および就職先の話である。今まで何も自分の将来について考えていなかった僕と比較し、4年生は本当に自分の将来について真剣に考えていて尊敬しかなかった。そんな彼らと時間を共にすることで僕も自分の将来について考えることが増えた。そしてぼんやりと将来海外で働けるような商社やメガバンに就職したいなと考えるようになった。ただ、そのためには言語力は必須だし英語以外の言語力も磨きたいなということで今こうしてスペイン語とフランス語にも真剣に取り組んでいる。また、僕の尊敬してやまない4年生たちがが度々口にしていたのが「○○(僕の名前)は1年生でこのプログラムに参加できていて本当に羨ましいしすごいよ」という言葉である。正直、僕にとっては遊びたいであろう4年生の最後の夏休みにケンブリッジに留学に来て勉強している方がすごいし尊敬しかないと思っていた。僕なりにこの言葉を自分なりに解釈してみると、やっぱりあと大学生活が3年半残っている僕は恵まれているんだなと思った。人生の夏休みとも言われる大学生活の序盤にこのような刺激的な経験をすることができ、新たな学びへのモチベーションも生まれている。4年生であんな刺激的な経験をしても新たに挑戦できることは1年生の僕と比べると限られてくる。そんな気持ちから僕に対して先ほどのような言葉を投げてくれていたんだなと思った。ちなみにこの言葉を僕に一番投げかけてくれていた4年生の先輩はケンブリッジで英語を使って生活しているにも関わらず、内定先の研修としてオンライン英会話も毎日30分行っていて本当に勤勉だし真面目だなと心の底から尊敬している。このような優しくもあり尊敬できる4年生と部活ではありえないほどに対等に仲良くなれたことが僕にとっては語学の重要性に気づけたことと同じくらいの財産である。将来ケンブリッジの街に帰れるように自分自身を成長させないといけないなと感じている。そして感じたことを行動に移すことが今僕に求められていることである。このように多くのLovelyな友人達との出会いにも恵まれ本当に充実した1カ月だった。
5.この夏期講座に参加を検討している主に1年生に向けて
僕はもちろんこの講座に友人が一人もいない状態で参加をした。しかし、関わることのなかった多くの学生と仲良くなることができ、すごくいい経験だった。特に4年生という僕たち1年生には無い視野をもっている人達と親密な関係を築けるのは非常によい経験になる。英語の学習、モチベーション向上になることはもちろんその経験を踏まえて残り3年半の大学生活を送るのは大きな財産になることは間違いない。だからこそ参加するか悩んでいるくらいなら是非応募して参加してほしいと思う。
6.最後に
何度も述べてしまっているが、この1カ月のケンブリッジでの生活は本当に2か月前の出来事なの?というレベルで未だに鮮明に記憶に焼き付いており、すべてが僕の財産である。広大なパドックでのチル、どう頑張っても日本じゃ見つけられないあの椅子、a littleって伝えても結局大量に盛られる食事、J棟3階のあの部屋、そしてIRのめっちゃ遠かった教室。すべてが本当にいい思い出である。
改めてになるが、僕が今回この夏期講座でケンブリッジ大学に短期留学するにあたってご尽力いただいたすべての方々に感謝したい。そして現地、また日本で僕と仲良くしてくれているすべての留学参加者の学生に改めて感謝したい。
長くなりましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。


