パリ政治学院春季講座 体験談11

体験談10  2016年度参加 法学部1年 S・Kさん

留学は私にとっての大きなスカラーでした。

【前書き】

私がこの体験談を執筆しようと思った理由は、留学をしようかどうか迷っている人に向けて、留学のありのままの姿を自身の体験をもって伝えたいと思ったからです。そのため正直にすべて書かせていただいております。

さて題にある「スカラー」という見慣れない文字ですが、これは数学でベクトルを学習するときに共に学ぶ概念です。ベクトルが方向を伴った量を表すのに対して、スカラーは方向のない絶対量のことを表します。これがなぜこの体験談で出てくるかは総括で説明するとして、この体験談では大きくプログラムに参加する前の自分、プログラムに参加している自分、プログラムに参加した後の自分についてそれぞれ「参加理由」「学術面および生活面」「総括」と題し、説明していこうと思います。

 
【プログラムの参加理由について

まず私が本プログラムに参加したかった点は以下の3つです。

  1. 国際関係学の学習

自分は以前から国際関連のニュースに興味がありました。今回の「連邦でも国家でもない曖昧な立場にあるEUの問題点・意義」というテーマは自分の特に関心の高かったものであったのでぜひ学びたいと感じていました。国際関係学は政治・経済・社会・文化といったあらゆる側面を検討する必要があるのですが、今回も外交・経済・移民という3つの視点からEUの機能を知るプログラムであったため、興味が惹かれました。

  1. 英語力を伸ばす

英語圏への交換留学を視野に入れていて、そのためには英語による講義に慣れ、表現を豊富にしたく思っていました。私は大学で英語による授業をとっておらず、日本語で意思表示が出来ない環境に敢えて自ら身を置くことは自然に英語に慣れるよい機会だと感じました。

 3. フランスの文化体験

私は高校2年生のときにフランス語の学習を初め、大学では既習インテンシブクラスのもと週6時間学習をしています。しかしフランス語は英語より積極的に使用する機会が少なく学習に意義を感じにくかったため、実際にフランスで自分のフランス語を試してみたく思っていました。またフランス語の文献を読み、現地の方々と会話をし、観光地に赴くことでフランスの文化を体験し、日本との違いを肌で感じたかったというのもあります。

 
【現地研修の学術面について

●講義

必修授業ではEUの歴史およびBrexit・環境対策・トルコの移民事情といったような経済・外交・移民の基礎問題について学び、選択必修授業としては経済・外交・移民の内から2つテーマを絞り、EUの予算問題・貿易政策・東欧の移民事情などより専門的な学習をしました。各授業は専門の講師が担当したため、各教員が私たちに期待する水準がバラバラであり、授業内容についていけていない参加者がいたのも事実ですが、専門的なことを学びたい人には突き詰めることが出来るものでした。実際私は英語力が講師の期待水準に達していないこともあり、ついていけないことがたくさんありました。講師の方々は全員「何か分からないことがあったらすぐ教えてくれ」と授業の初めに促してくれ、学生にとって理解しがたい要点を抑えて分かりやすく授業をしてくれるので、ある程度の疑問点はその場で質問でき理解度を上げることが出来ます。しかしやはり専門的な話は講義以前の事前学習が不可欠です。ある程度の知識が要請されるので、意識して事前学習をすると授業に難なくついていけると思います。

●レポート

講義の修了とともに15ページのレポートの提出期限があります。レポートの内容はEUに関するものであれば自由なので、最初に何を学びたい内容をはっきり決めてからいくことをおすすめします。私は今回15枚ものレポートは初めてであり、テーマ設定に時間がかかってしまいました。とりあえずいろいろな文献を読みながら、興味のある分野がどの方面であるか絞ろうとしましたが、結局幅広いテーマになってしまい、資料のみで40ページになってしまいました。また英語力がないと要約や日本語の文献の翻訳にも大変時間がかかるので、実際私が資料の要約・翻訳を終わらせたのは期限の2日前でした。自分の意見も決めることが出来ず、資料から構成を立てる必要もあったのですが、時間不足で結局上限を大幅に超える25ページで提出してしまいました。レポートはチューターに手伝っていただきながら少しずつレポートの方向性を見つけていく予定だったのですが、結局最後まで「これは大雑把過ぎて書けないよ、もっと絞ったほうがよかったんじゃない?」と言われてしまいました。評価も参加者の中では最低評価でした。大変後悔が残るところです。

最高評価を得た他の参加者に聞いたところ、普段からレポートのテーマについて考えていたらしく、プログラムの参加前には大体決めていたといいます。また一ヶ月に一回自分にレポートを課しているという人もいました。講義と同じく事前準備をする必要があったことに気づかされました。

●英語

私はTOEFL87というスコアで本プログラムに申し込み、参加いたしました。これは本プログラムの最低限度の点数なのですが、実際1ヶ月英語による授業を受けてみて、TOEFL87は授業内容を理解するために必要なスコアではなく、授業に参加するために必要なスコアであるということに気づきました。本当に「最低限」のスコアということです。私が授業で理解できたところは全体の30%と授業の概要にとどまり、本当に知りたい深いった質問についてはあまり出来ませんでした。もちろん先に述べてように授業内容が著しく高度であることは一つ要因としてはありますが、やはり英語が分からないようだと何が分からないかも分からなくなってしまいます。細かなところまで知るには英語力もより高くなければならないのだと痛感しました。

ただその中でも授業が進むにつれ、他の参加者の方々から「質問しているときの英語の流暢さが増している」といわれるようになり、少しは英語力がパリに来て上達したのかなとは感じています。

●フランス語

講義とは別に初心者用・中級者用・上級者用に分かれフランス語演習の授業が計5回ありました。私は上級者用のクラスで、ビデオを見ながら一つ一つ何を言っているのかディクテーションをしながら現地特有の表現などを学びました。また講師の方は完全にフレンチネイティブだったので、英語で逃げられない環境で何とか意思表示をしようとすることに最初あせりましたが、講師の方はジェスチャーやいくつもの用例を示してくれながら表現の説明をし、コミュニケーションをとろうとしてくれたので楽しんで授業を受けることが出来ました。授業で学んだ表現をカフェやフランス人の観光客との会話に活用したので成長を身にしみて感じることができました。私は個人でアメリカに滞在したことがあり、英語で会話するように心がけていたのですが、そこでのアメリカ人の反応はあまりよくありませんでした。それに対し、フランス人はフランス語で話す人には優しく接してくれたので、私としては勇気付けられるものでした。

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(フランス語クラスの講師とメンバー)

●フィールドワーク

各年ブリュッセルとストラスブールのどちらかになりますが、今年はブリュッセルでEuropean CommissionまたEEAS(欧州対外行動局)に訪問し、EUで働く方々にお話を伺う機会がありました。役人としての回答だったので、一人ひとりがどのように考えているのかといったあまり深い質問には答えていただけませんでしたが、EUとしての意見を聞くことが出来たことは大変よい機会でした。日常で国際機関に入ることがないので、実際にどのようなことがなされているのかを知ることも出来るので、国際機関で働きたい人には特にお勧めしたいと思います。

またレポートの際にお世話になる4人のチューターごとに30人近くいる参加者がグループを組み、各チューターが与えてくれるテーマに沿って調べながら、グループとしての意見を形成し、最後はSciencesPoルアーブル校の学生とディスカッションをしました。現地の学生の意見は新鮮で日本にいるだけでは分からないものもあったのでよい機会でしたが、日帰りでのルアーブルへの訪問だったので各テーマ20分程度と短くあまり本質までたどり着けなかったところが残念でした。ただそこで調べたテーマが自分の興味のあった移民とはまったく無関係のヨーロッパ各国の環境対策だったため、より広い知識を得ることが出来ました。

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(ルアーブル校近くの港町でのひととき)

【現地研修の生活面について

●宿泊施設周辺

私たちはAdagioという二人部屋のホテルに1ヶ月滞在しました。朝食・洗濯機がありますが有料ですので朝食は控え、衣服は5日分ほど持っていき節約をするとよいと思います。部屋は一部の部屋が隣の部屋と繋げることが出来るようになっているので、8人以上でも十分に歓談できます。Bercy Villageというショッピングモールが徒歩1分のところにあり、その中のスーパーマーケットで基本的に夜ご飯の材料を購入していました。

●参加者との交流

本プログラムの参加者は他に東京大学、一橋大学、東京外国語大学、上智大学、早稲田大学など日本の大学から来ているため、外国人留学生以外は全員日本人でした。参加者との会話が基本日本語で通じてしまうところはありましたが、正直自分の意思が確実に伝わることは、外国語でしか通じない外の環境から解放された気分でした。もちろん参加者同士でも英語で話す場面がないわけではなかったのでその際には英語を使って話すことがありましたが、留学中ストレスに感じた部分や自分の進路について相談したり、初対面の参加者と会話をしたりするときにどうしても英語だと通じない場面がありました。最初からいきなり交換留学に行くなどしていたら、ストレスが大変たまるので、このような日本人の参加するようなプログラムで少しずつ英語に慣れていくことがよいのだと思いました。

●食事

スーパーマーケットにはチーズやワイン(18歳以上なら合法)が豊富にあり、野菜もアーティチョークなど珍しいものもあり、どれもかなり安い値段で販売されていたのでいろいろな料理を作りながら楽しむことが出来ました。日本食がないとさびしくなると言われ、味噌と醤油を持って行きましたが、まったく使う頻度がなかったので無理をして持っていく必要はないと思います。外食は出来る限りディナーにせずランチにし、ランチで13ユーロ程度のコースにしたり、5ユーロのサンドイッチを食べたりすることでパリジャンらしい生活を楽しみました。鴨のコンフィなど聞きなれない高そうな料理もランチなら13ユーロ程度で食べられるところがあるのでお勧めです。

●休みの過ごし方

中世的な建物が並ぶパリの街は雰囲気まで中世の面影を残しています。美術館やオペラ座などがあちこちにあり、メトロでは車内やホームでダンスや演奏を見ることが出来ます。絵に関して言えば、私はモネが好きだったのでマルモッタン美術館やオランジュリー美術館に行きました。特にオランジュリー美術館の8つの「睡蓮」はお勧めです。少し足を伸ばせば、モンサンミッシェルやロンドン、ウィーン、グラナダにも訪問することが出来るそうで、かなり多くの参加者がパリから外に出てヨーロッパ観光をしていました。フランスだけではない国の文化を知りに行くのも悪くないと思います。

街中のジャズ.jpg

   (街中のJazz)

【まとめ

今回プログラムに参加して、以下のことを学びました。

  1. 国際関係学を学ぶには更に多くの事前学習が必要。レポートに関しても事前にテーマをたてながら、練習をすることをこれから忘れない。
  2. 語学力は伸びたがまだまだ講師の求めているレベルには達せてはいない。参加するための最低スコアは、授業に参加することの出来る最低限のスコアであり、授業内容をしっかり理解できるようになるためにはまだまだ英語力が足りない。
  3. フランスの芸術作品、街並などの文化を重んじる国民性を見ることが出来た。また言語について自分の国に出来るだけなじんでほしいという雰囲気を感じた。

高校を卒業するとき、恩師に「成長とはベクトルではなくてスカラーである」という言葉をいただいたのですが、その言葉が一年を経て大変胸にしみています。ある経験を経て前の自分からの何かしらの変化がある、それが「成長」だということです。上記のように特に学業面でかなり後悔の残る留学となってしまいましたが、このような体験を踏んだことで、「もっと英語力や事前学習が必要なんだ」「EUって意外と機能できていないんだな」「フランスでは言語が通じれば意外とやさしいんだな」と感じられるようになりました。留学している当時は授業が分からないことだらけで、英語力も上がらず、レポートの期限も迫るとストレスがたまる一方であり、留学に本当に意味があるのかと悩んでいました。しかし帰国して少し時が経っている今では、そのような後悔も留学を経なければ感じることが出来なかったと「成長」を感じられています。

留学を希望している方や留学を考えている方はよく「留学をすると成長する」という表現を聞くと思いますが、実際どんな経験でも自分を成長させることが出来ます。ただ自分の考えを特に大きく変えることについては留学に行くことなしには成し遂げられなかったのだと思っています。スカラーが他の経験より大きかったんです。留学は苦しい経験でもありましたが、その分有意義な経験です。皆さんもぜひ留学に挑戦してみてください。

 自分を大きく変えてみたいと思いませんか?

大聖堂.jpg

(ノートルダム大聖堂とセーヌ川)

 

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