パリ政治学院春季講座 体験談17
体験談17 2024年度参加 法学部1年 M・Mさん
【はじめに】
私は、EUの公共政策を学ぶために、本講座への参加を決意しました。しかし、振り返ってみると、本講座で得た学びは当初の目的を大きく超え、有意義なものでした。そこで、今回は以下の4構成に分けて、プログラムの紹介と私の活動を共有できればと思います。
① プログラム概要
② 学術的活動
③ 文化的活動
④ 交流活動
【プログラム概要】
日本の学生約30名が、パリ政治学院で1ヶ月間かけてEUを学ぶプログラム。参加大学は慶應義塾大学(半数以上)、東京大学、京都大学、上智大学、東京外国語大学、北海道大学などです。
EUに関する授業は英語で行われ、フランス語の授業は別個に設置されています。4週間の間に中間・期末試験があり、一定の成績を得ると合格することができます。本年度は授業への出席と中間試験の点数(50%以上)が主な合格の基準でした(過去のプログラムでは期末エッセイだったようですが、本年度の期末試験は記述2問の120分試験でした)。
授業の他にも、学校主催のセーヌ川ボートツアー、EU諸機関見学などといった文化的活動も多く用意されていました。パリで、これ以上濃密な1ヶ月のプログラムは考えられないほど、さまざまな活動が凝縮されたプログラムです。
最初の1週間はEU Core CorseにてEUの基本を学習し、2-3週目はEUの選択必修科目を学習します。4週目はEU諸機関の視察と期末試験です。
【学術的活動】
1. 授業(EU Core Course)
最初の1週間はEU Core Course(4授業)とIn-depth Session(1授業)で、EUの基本を学習します。1日平均4時間程度の講義を受けるため、まさに「大学に通っている」感覚です。受けた授業を少しずつご紹介します。
① History and Politics of European Integration
EUの諸機関の基礎と、その成り立ちを学習します。最も基本的な内容なため、全授業で最も重要な授業です。担当の教授が本当に早く英語を話すイギリス出身の方であったため、本当に大変な授業でした。
② European Economic Governance
EUの経済政策の変遷とその問題点を学習します。教授の伝えたいメッセージが非常にわかりやすく、個人的にはとても楽しい授業でした。ただ、経済学史の内容(古典派とケインジアンの対立)を基本とした内容だったため、マクロ経済学を学習した経験のない参加者にとっては難しい講義だったように思います。
③ Introduction to EU Law
EU法の基礎を学習します。わかりやすい講義で、学生からも好評でした。講師の方は現在もEUで勤務されている方だったため、のちのEU視察でもお世話になりました。
④ European Environmental Politics
EUにおいて、なぜ環境政策が理由で重要視されるようになったのかを学習しました。
⑤ In-depth Session
TA(修士の学生)による総振り返りの授業です。
2. 授業(選択必修科目:The EU and the World)
選択必修科目はEUの外交にフォーカスするコースとEUの内政にフォーカスするコースに別れます。私は前者を選択しました(渡航前の事前アンケートで選ぶことができます)。こちらでも受講した授業をご紹介したいと思います。
① Migration
世界各国の移民政策を学習しました。本コースでは唯一、全世界的な視点を織り交ぜた授業だったように思います。
② EU Foreign, Security, and Trade Policy
EUの外交関連政策をまとめて学習しました。最もインタラクティブな形式で、学生からも非常に人気のある授業でした(国際会議のように、発言したいときは自身の名前入り机上札を立てるというユニークな仕組みが取り入れられていました)。
③ EU's Global Climate Action
EUの環境政策を環境経済学の視点から学習しました。ハートウィック・ルールといったような環境経済学の基礎をも学習することができるコースで、個人的には興味深い授業でした。
④ Simulation Game
番外編のような授業で、実際の国々やEUのアクターになりきって交渉を行うゲームを行いました。テーマは「ウクライナ平和案」で、それぞれがロシア・中国・米国・欧州委員会・欧州対外行動庁・ドイツ・フランスなどになりきって交渉を行いました。私の所属する欧州チーム(欧州委員会・欧州対外行動庁・ドイツ・フランス)は、前日の夜にホテルのフリースペースに集まって合同作戦会議を行い、シナリオ分析を行った上で交渉に臨みました。結果的には米国役の積極的な外交戦略によって交渉は成功し、欧州役は外交的勝利を得ることができました。
3. 授業(フランス語)
初級・中級・上級に分かれていました。本年度は初級・中級のみ開講され、私は中級を履修しました。しかし、この中級コースが想定の数倍難しいコースで、大変苦労しました。内容はフランス語の中級文法に加えフランス語のプレゼンまで行うコースで、CEFR B1以上のフランス語力が前提とされているように思います(私は塾内一貫教育校で1年、法学部政治学科既習者コースで1年学習していましたが、A1-A2レベルだったため追いつくのに必死でした)。基本的には講師の方が常にお話しされている講義形式なので、リスニング力は大変鍛えられます。
使用した参考書はEasy Learning French Grammar(Colins Dictionaries, 2016)です。文法の宿題に役立ちました。英語で書かれたフランス語の文法書のため非常にわかりやすく、おすすめです(アメリカで購入したため日本で購入できるかはわかりません)。
4. 試験
試験は中間試験と期末試験があります。
中間試験は4者択一のオンライン試験(1時間)で、コア・コースの①から10問、②と③からそれぞれ5問ずつ出題されます。①からの出題はかなり難しく、スライドにない口頭部分からも出題されるので、しっかりとノートを取ることをお勧めします。②と③は基本的にスライドからの出題でしたが、細かい知識も問われました(例えば、EU法の「直接的効力」が初めて判例上認められた裁判の名前は次のうちどれか、などといったものです)。
期末試験は論述式の対面試験(2時間)で、コア・コースから1問、選択必修コースから1問出題されます。私はなるべく良い結果で終わりたいと思っていたため、ルームメイトと一緒に前日の深夜まで勉強してから本番を迎えました。良い答案を書くためには、念入りな授業資料の理解と暗記が必要だと思われます。
使用した参考書は「はじめて学ぶEU」(井上、2020)です。講義の60%程度の内容はこの参考書で網羅されていました。現地では日本語のEUの資料は手に入らないので、スーツケースに余裕があれば日本から持参することをおすすめします。
ちなみに、試験勉強はスターバックスなどのカフェと家で行いました。図書館は現役の学生でほぼ埋まっており、一般のフランスのカフェは勉強する場所ではないので、(フランスから見た)外資のカフェか家での勉強をおすすめします。
5. 英語
参加に必要とされていた英語力はTOEFL 90程度でした。ただ、個人的にはTOEFL100があるとほとんどの授業内容が理解できるため楽しいと思います。
今回の参加者はほとんどが海外経験のない学生でした。そういった意味で、英語力で過度な心配をする必要は無いように思います(むしろ、授業においては、英語力以外のコミュニケーション力の方が重要だと感じました)。
なお、私も今回が初の1ヶ月以上の海外滞在経験でした(いわゆる純ジャパです)。大まかな英語力はTOEFL iBT 107・IELTS OA 7.5程度です。
【文化的活動】
1. 学校主催の活動
今回のプログラムでは、かなりの文化的活動が学校主催のプログラムとして準備されていました。今回はその一部をご紹介できればと思います。
① Boat Tour
到着翌日に行われた最初の文化的活動です。セーヌ川のクルーズツアーで、エッフェル塔やルーヴル美術館などをセーヌから見て回ることができました。
② Opéra Garnier
オペラ座(ガルニエ)を訪問するツアーです。この日は運良くオペラ座の劇場に入ることができ、豪華絢爛な内部を見学することができました。とても良いツアーでした。個人でまた行きたいと思います。
③ Versailles
ヴェルサイユ宮殿を訪問するツアーです。人生初の訪問だったため、その荘厳さに感激しました。
2. 個人で行った活動
休日は美術館などのパリ観光と、モン・サン=ミシェル観光(フランス)、ルーアン訪問(フランス)、ルーヴァン訪問(ベルギー)などをして過ごしました。
① 美術館・博物館
美術館としては、ルーヴル、オランジュリーを訪れました。ルーヴルにはそこら中に有名な芸術作品が展示されており、大変驚きました。博物館はルーアンのジャンヌ=ダルク博物館に訪れました。博物館というより最新の体験型施設で、楽しんでまわることができました。
② 教会・修道院
モン・サン=ミシェルやルーアン大聖堂を訪れました。モン・サン=ミシェルは日帰りの弾丸ツアーでしたが、滞在中はあまり時間がないため日帰りにして正解だったように思います。
③ オペラ・クラッシックコンサート
オペラ(バスティーユ)とクラッシックコンサートにも行くことができました。残念ながらガルニエのバレエは観ることができなかったので、また次回の楽しみにしたいと思います。
【交流活動】
1. 学校主催の活動
① UNESCO日本代表部訪問
パリに本部があるユネスコの日本代表部を訪れ、大使のお話をお聴きする機会をいただきました。国際機関の最前線で働く大使のお話が本当に興味深かったため、学生からの質問が終わらず予定時間を超過するような一幕もありました。
② EU機関訪問
ブリュッセルに本部があるEUの諸機関を訪れました。私が訪問したのは欧州議会、欧州委員会、欧州対外行動庁の3機関です。それぞれの機関で実際に働く方からお話を聴くことができるという豪華な内容でした。
2. 自主開催した活動
① 日本語クラスとの交流会
現地で偶然知り合った日本語の講師の方のクラスにお招きいただき、日本人学生10数名とパリ政治学院の学生10数名との交流会を開催しました。1回目が盛況に終わったこともあり急遽第2回も開催することとなり、大変楽しい時間を過ごすことができました。
以上のように、パリ政治学院春季講座は学術的活動、文化的活動、そして交流活動の全てが充実しているプログラムであり、参加を迷っている方がいれば強く参加をお勧めします。現地パリでの生活も、観光客ではなく一学生としての日々は、きっと実り多いものになります。来年度以降、より多くの参加者が充実したパリでの生活を送ることをできることを、心より祈念しております。